不動産の売却は、事前の情報収集から売却後(売却した年の翌年)に行う確定申告まで、以下の8つのステップで進めていきます。
まず、売却したい不動産がどれくらいの価格で売れるのか周辺相場を調べます。
不動産の価格はエリアによって変わります。そのため、売却したい不動産の近隣で売られている不動産情報を収集し、周辺相場を把握するのがよいでしょう。売却したい不動産と近い条件の物件や土地がいくらで売られているのかを確認することで、売却価格の相場を把握することができます。例えば、不動産サイトで周辺相場を検索してみるのもいいでしょう。
売却したい不動産の相場を把握したら、買い手候補の募集や売却の細かな手続きを依頼する不動産会社に相談しましょう。
相談する際には、売却に向けたおおよその計画を立てておくとよいでしょう。あらかじめ決めておく項目は、売却までのスケジュール(期限の有無、早く売却したいか、時間がかかっても良いか、など)と、金額(最低でもこの金額で売りたい、など)です。
不動産会社に相談すると、担当者が不動産の査定を行います。査定は、「いくらで売却できるか」の目安を立てるものです。
査定には、机上査定と訪問査定という2つの方法があります。机上査定は、実際の物件を見ずに、不動産の概要や近隣の売買事例の価格などをもとに査定額を算出する方法です。訪問査定は、不動産の状態や周辺の環境などを担当者が現地で細部まで確認する方法で、査定額の精度は机上査定よりも高くなります。
査定額は不動産会社によって異なるため、より正確な査定をしてもらうためには、複数の不動産会社へ相談し、信頼できるところへ査定を依頼するのがよいでしょう。
複数の査定額やサービスを比較・検討したら、買い手候補を募集してもらう不動産会社を決め、契約を結びます。この契約のことを媒介契約と言います。売り出し価格や売却できたときに不動産会社に支払う報酬、売却に向けた活動の方針や内容も、この契約を通じて決めます。
契約の種類は3つあります。1社のみの不動産会社に買い手募集を任せる場合は「専属専任媒介契約」または「専任媒介契約」となります。複数の不動産会社に依頼する場合は「一般媒介契約」となります。
専属専任媒介契約 | 専任媒介契約 | 一般媒介契約 | |
---|---|---|---|
複数業者との仲介契約 | × | × | ○ |
依頼者自らが見つけた相手との契約 | × | ○ | ○ |
指定流通機構(レインズ)への 登録義務 | 5営業日以内 | 7営業日以内 | × |
業務処理報告義務 | 1週間に1回以上 | 2週間に1回以上 | × |
・専属専任媒介契約
買い手を探す売却活動を1社のみの不動産会社に任せる契約のため、その他の不動産会社に売却依頼することはできません。また、買い手募集を全て任せることになるため、売主自身が買主を見つけた場合でも、仲介業者を通じて契約することになります。
不動産会社の視点から見ると、専属で売却活動できるため、売却を成立させることによって確実に仲介手数料を得ることができます。そのため、熱心に買い手を探してくれる可能性が高くなります。また、営業力がある会社の場合、早期に売却に結びつくことがあります。
売却活動の内容については、売主に対して1週間に1回以上、書面等で報告することが定められています。
・専任媒介契約
専属専任媒介契約と同様に、売却活動を不動産会社1社に任せる契約で、その他の不動産会社に売却依頼することはできません。ただし、売り手である不動産の所有者が買い手候補を見つけた場合は、買主と直接契約することができます。
売却活動の内容については、売主に対して2週間に1回以上、書面等で報告することが定められています。
・一般媒介契約
複数の不動産会社に売却活動を任せることができる契約です。売却活動の範囲が広くなるため、専属専任媒介契約や専任媒介契約と比べ、より広範囲に買い手候補を探すことができます。
ただし、不動産会社の視点から見ると、仲介手数料が得られるのは売却を成立させた不動産会社のみとなるため、積極的に営業してくれない可能性があります。また、売却活動に関する内容の報告義務はありません。そのため売却活動の状況を把握するには、売主から各不動産会社に連絡して確認する必要があります。
媒介契約を結ぶと、不動産会社による買い手募集の広告掲載などがスタートします。
また、不動産売却の情報が開示されるため、購入を検討する人が土地や建物を見にくるようになります。居住中の場合の内覧は、基本的に売主が立ち会います。
購入検討者が見学を希望する日は週末が多いため、売主に予定がある場合は事前に営業担当者に伝え、日程調整や手配を事前に行っておきましょう。
購入検討者の内覧当日は、室内のなかでもとくに汚れが目立ちやすい玄関回りや水回りの清掃を念入りにし、室内を明るくするなど、良い印象を持ってもらえるように準備しましょう。戸建て住宅などの場合は庭なども片付け、きれいにしておくと印象が良くなります。
購入希望者が現れると、不動産会社の担当者を通じて希望者の「購入申込書」を受け取ります。
購入申込書に記載されている購入希望者からの希望条件(売買価格、支払い条件、スケジュール、融資の利用予定、その他)を検討し、不動産会社を通じて条件等の調整を行います。そして、売主と買主が合意した場合は売買契約の準備をしてもらい、売買契約の手続きへと進みます。売買契約書には、売買価格、売買する不動産に関する情報、引渡し時期などが明記されます。
売買契約は、売主、売主側の仲介業者、買主、買主側の仲介業者が集まって行うのが一般的です。
売買契約後の決済では、手付金を差し引いた売買代金の残代金を受領し、引き渡し日を基準として固定資産税や管理費(マンションの場合)等の清算を行います。決済が完了したら、引き渡し日に売却する不動産の引渡しを行います。
売却する不動産に住宅ローンの残債がある場合、金融機関の抵当権が設定されていたら抵当権を抹消する手続きが必要です。手続きには時間がかかりますので、事前に金融機関に確認する必要があります。決済時に行う所有権移転登記等の申請は登記を代行する司法書士に依頼します。
引渡し日が決まったら、その日に合わせて引越し業者の手配も進めておきましょう。
売却までの流れを踏まえたら、次に、不動産売却に必要な書類を準備しましょう。詳細は以下のとおりです。
○写真付身分証明書
不動産売却には本人確認が必要です。そのため、売主本人を証明するための写真付身分証明書として、運転免許証やパスポートなどが必要です。無い場合は2つの身分証明書が必要となってきます。
○印鑑証明書及び印鑑
売買に伴う各種書類などに捺印するための印鑑(実印)と、印鑑証明書が必要です。実印とは、市区町村の役場で登録した印鑑のことです。印鑑を登録すると、印鑑証明書が発行できるようになります。なお、登記申請に添付する印鑑証明書の有効期限は3カ月以内ですので、残金・決済日に期限が過ぎる場合は再取得します。
○登記済権利書、登記識別情報
登記済権利書は、売主が不動産を所有していることを証明するものです。登記済権利書は、物件取得時に法務局から交付されています。 不動産の売却時には、登記済権利書等を買主に渡し、移転登記を行うことにより、不動産の所有権を移転します。売却する不動産が2005年(平成17年)以降に取得したものである場合は、登記済権利書に代わり、登記識別情報が発行されていることがあります。その際は、登記識別情報を準備します。
〇固定資産税・都市計画課税証明書、固定資産評価証明書
固定資産税・都市計画課税証明書は固定資産税などを支払う義務がある人に対して、税金の算定の基準となった不動産の評価額や実際に納税すべき額および支払い期限を通知する書類です。納税通知書及び課税明細書の再発行はできないので、紛失しないように注意しましょう。
固定資産税は、土地や建物を所有する人にかかる税金で、1月1日時点の所有者に1年分が課税されます。そのため、売買によって物件の所有者が変わった場合には、不動産の引き渡し日に売主と買主の間で清算するのが慣例です。
固定資産評価証明書は、固定資産である不動産の課税標準額などの事項を証明するためのものです。この証明書は市区町村の役場などで取得できますが、売却活動を依頼した不動産会社に代理委任して取得してもらうこともできます。
〇建築確認済証や検査済証
売買する不動産は法律(建築基準法)に則って建築されていなければなりませんので、売却する不動産が建築基準法に基づいて建築されていることをこれらの書類によって証明します。
いずれの書類も売却する不動産を購入する時に取得しているものですが、古い建物では検査済証を取得していないケースが見られます。また、紛失した場合は再発行ができませんので、市区町村で取得の有無が記載された書類を取得します。取得方法がわからない場合は、売却活動を依頼した不動産会社が代わりに取得してくれることもありますので、相談してみましょう。
○地積測量図、境界確認書
一戸建てや土地を売却する際に必要な書類です。地積測量図は、売却する土地の面積を明確にするためのものです。境界確認書は、売却する土地と隣接する土地との境界を明確にし、この確認書によって、どこからどこまでの土地が売却対象になるかが明らかになります。
地積測量図は法務局で取得できます。境界線が未確認の場合は、隣接する土地の所有者と相談し、了解を得た上で地積測量図を作成します。境界確認書は公的には保管されていません。手元にない場合、紛失している場合などは、測量した会社に問い合わせましょう。測量した会社が不明な場合などは、あらためて測量する必要があります。
○マンションの管理規約など
マンションを売却する際に必要な書類です。マンションは集合住宅であるため、住民が快適に暮らせるように各種規定を作っています。その内容を示しているのがマンションの管理規約で、この書類により、マンションの維持管理方法や、ペット可など独自のルールを買い手候補に伝えることができます。買い手候補としては、維持管理の方針だけでなく、維持費や管理費などの費用を知るための重要な資料にもなります。
マンションの管理規約は、マンション購入時に取得しているはずです。万が一、見当たらない場合は、マンションの管理会社が保有しているはずです。管理会社に問い合わせるか、売却活動を依頼した仲介会社に相談し、手配してもらうと良いでしょう。
○ローン残高証明書、ローン返済予定表
ローンを完済していない不動産は基本的には売却できません。そのため、売却時にはローンの完済予定を示すローン残高証明書か、ローン返済予定表が必要になります。
ローン残高証明書の入手方法は、ローンを組んでいる金融機関に問い合わせましょう。ローン返済予定表はローン残高証明書の代わりとなるもので、この書類の入手方法もローンを組んでいる金融機関で聞くことができます。
○銀行通帳
不動産売却の代金は買主から銀行口座に振り込まれます。そのため、銀行など金融機関の通帳が必要です。インターネットバンキングの場合は通帳がありませんので、金融機関名、支店名、預金種目、口座番号、口座名義人のわかる画面をスクリーンショットする等して、振込先口座の情報を伝えましょう。
○その他|売却する不動産に関する書類
上記に挙げた書類以外にも、売却する不動産に関するものであれば、基本的に全て揃えた方が良いでしょう。
例えば、地盤調査報告書、住宅性能評価書、既存住宅性能評価書などは、不動産の性能や品質を示すもので、買い手候補が物件を選ぶ際の重要な資料となります。 また、売却する不動産を購入した時の契約書、重要事項説明書、購入時のパンフレットなども買い手候補にとって重要な資料となります。
項目 | 内容 | 土地 | 一戸建て | マンション | |
---|---|---|---|---|---|
1 | 写真付身分証明書 | 本人確認 | ○ | ○ | ○ |
2 | 実印・印鑑証明書 | 売却する本人の実印(共有の場合は共有者全員の実印)。証明書は3カ月以内のもの | ○ | ○ | ○ |
3 | 住民票 | 登記上の住所と売主の現住所が異なる場合に必要。3カ月以内のもの | △ | △ | △ |
4 | 登記済権利書・登記識別情報 | 売却物件の内容確認や登記の際に必要 | ○ | ○ | ○ |
5 | 固定資産税・都市計画税証明書、固定資産評価証明書 | 固定資産税や都市計画税など、税額の確認 | ○ | ○ | ○ |
6 | 建築確認済証・検査済証 | 不動産が建築基準法に適合しているかどうかの確認 | × | △ | △ |
7 | 地積測量図・境界確認書 | 一戸建てや土地の売買の場合。売却範囲の確認 | △ | △ | × |
8 | マンションの管理規約など | 管理内容や使用ルールがわかる書類 | × | × | ○ |
9 | ローン残高証明書、ローン返済予定表 | 売主がローン返済中の場合に必要。残債と返済額がわかるもの | △ | △ | △ |
10 | 銀行通帳 | 売買代金が振り込まれる | △ | △ | △ |
11 | 建築設計図書・工事記録書等 | どのように設計・ 工事されたかの確認書類 | △ | △ | × |
12 | 地盤調査報告書・住宅性能評価書・ 既存住宅性能評価書など | 売主が保有している証明書等があれば提示する | △ | △ | △ |
13 | 売買契約書・重要事項説明書など | 所有していれば提示する | △ | △ | △ |
14 | パンフレット、広告資料など | 所有していれば提示する | △ | △ | △ |
不動産の売却は長い道のりとなります。専門用語や特殊な手続きが多く、普段は見慣れない書類を手配する必要もあるため、手続きなどの面でミスや不備が出てしまう可能性もあります。
事前に売却までの流れを把握するとともに、準備する書類のチェックリストなどを作ってミス防止に努めましょう。また、不明点などがあるときは、売却活動を依頼した不動産会社が心強い相談相手になってくれます。不動産売却の実績が多いこと、社会的信頼がある会社であること、担当者が十分な知識を持ち、きちんと対応してくれることなどを重視しながら、パートナーとして安心して不動産売却に取り組める不動産会社を選ぶようにしましょう。